グローバル企業が新たに対応を迫られている大きなリスクの一つが、海上交通の要衝をめぐる混乱である。こうした要衝は以前から存在していたが、近年のホルムズ海峡や紅海での事案によって、その脆弱性と、世界貿易に及ぼす影響が改めて浮き彫りになっている。
世界的な脅威
世界の貿易量の約80%は海上輸送によるものだ。その多くが世界各地に約12カ所ある海上交通の要衝を通過している(図表1)。世界の海上貿易の約3分の1が5つの要衝を通過しており、過去5年間にその要衝で混乱が生じた。スエズ運河(2021年)、パナマ運河(2023~2024年)、ボスポラス海峡(2022年)、バブ・エル・マンデブ海峡(2023年~現在)、そしてホルムズ海峡(2026年)である。その原因は、運航上の事故や気候変動に伴う水不足から、意図的な攻撃や戦争まで多岐にわたる。
なかでも、地政学的緊張は最も顕著な脅威だ。国家主体、非国家主体のいずれも、狭い海峡や水路を利用して、戦略的・経済的な圧力をかけることができる。航路が正式に閉鎖されなくても、攻撃のおそれがあるだけで通航量が減少し、海運会社が運航を停止し、既存の海上輸送ルートが分断され、運賃や保険料が急騰する可能性がある。
技術の進歩によって、より容易かつ低コストでこうした混乱を引き起こせるようになった。安価な無人航空機や無人水上艇、精密誘導ミサイル、GPSへの妨害、AIS(船舶自動識別装置)の信号偽装などが、商船に対する脅威として顕在化している。気候変動もリスク要因の一つであり、パナマ運河での通航制限がその例である。将来的には、北極圏の海氷融解によって北極海航路が今より航行しやすくなり、ベーリング海峡などの海上交通路の戦略的重要性が高まると同時に、潜在的な脆弱性も一段と増す可能性がある。
原因が何であれ、海上交通の要衝で生じる混乱の影響は、貨物の輸送遅延といった直接的なものにとどまらない。実用的な海上代替ルートが存在しない航路があるうえ、迂回が可能な場合でも、航行距離が数千キロメートル延び、輸送に数週間余計にかかり、コストが数百万ドル単位で増加する可能性がある。運賃の急騰や輸送の遅延は、要衝が再び通航可能になった後も、在庫補充のサイクルや消費者物価に波及する。海上輸送に時間を要するうえ、サプライチェーンでは、二重発注や安全在庫の積み増しによって過剰な調整が生じることも少なくない。
5つの教訓
海上交通の要衝は、グローバル企業が事業計画や意思決定に織り込むべき新たな要素の一つであり、その影響は決して単純ではない。今後の計画策定に役立つ5つの教訓を示す。
1. 海上交通の要衝ごとに、混乱の深刻度は異なる。混乱の深刻度は、地理的条件と貿易量によって大きく左右される(図表2)。
ホルムズ海峡、ボスポラス海峡、デンマーク海峡
一方、他の要衝は迂回が可能だが、それには相応のコストを伴う。たとえば、東南アジアから北東アジアへ貨物を運ぶ船舶は、通常、台湾海峡かルソン海峡を通航する。両方が閉鎖された場合は、フィリピンを迂回して東側の太平洋へ航路を変更できる。ただし、その場合、約4,000キロメートルの航海距離が約5,500キロメートルとなり、27%長くなる。迂回による航海距離の増加率は、ジブラルタル海峡(85%)、パナマ運河(47%)、スエズ運河(46%)、バブ・エル・マンデブ海峡(44%)ではさらに大きい。
重要なのは距離だけではない。貿易量も大きく影響する。たとえば、台湾海峡やマラッカ海峡は比較的迂回しやすい。しかし、これらの海峡を通過する原材料や最終製品の量が極めて多いため、混乱が生じれば、大幅なコスト増につながる。マラッカ海峡の場合、インドネシア群島を通る複数の水路がすべて利用できなくなれば、大量の船舶が時間とコストのかかる大幅な迂回を余儀なくされる。
どの要衝についても、混乱がどの程度深刻になるかは、最終的には市場環境に左右される。利用可能な船舶の余力、燃料費をかけて船速を上げられる余地、荷主が出荷を遅らせたり輸送手段を切り替えたりできるかなどだ。輸送コストの上昇は物価を押し上げるが、その要因は航行距離が延びることだけではない。航海が長期化すると、1回の航海で船舶が拘束される日数が増えるため、同じ数の船舶でも一定期間内に往復できる回数が減り、1カ月に輸送できるコンテナの数も少なくなる。輸送能力のさらなる逼迫を懸念した荷主が輸送枠の確保を急げば、運賃はさらに上昇する。つまり、船舶そのものが失われていなくても、実質的な輸送能力は低下する。
さらに、大手海運会社が特定の海域の通航を停止し、船舶を別の航路に振り向けることで、影響が海運市場全体に波及することもある。実際、バブ・エル・マンデブ海峡をめぐる緊張を受け、2023年以降、複数の大手海運会社が喜望峰経由の航路に船舶を振り向けている。航行距離が延びれば海上輸送の供給能力が逼迫し、代替航路の運賃も上昇する。
企業にとって、海上交通の要衝をめぐるリスクが一つの地点だけに限定されることは少ない。むしろ、複数の要衝にまたがるリスクを全体として捉える必要がある。一つのサプライチェーンが複数の海上交通の要衝を経由する場合、企業は各航路を個別に評価するのではなく、それらを合わせた影響を把握し、管理するべきだ。また、複数の要衝で同時に混乱が発生する可能性もある。たとえば、サウジアラビアの輸出企業は、ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河のそれぞれで制約を受ける可能性がある。その場合、輸出ネットワークの異なる部分が同時に影響を受け、貨物を別の航路へ迂回させる選択肢も限られる。
2. 地域によって影響の大きさは異なる。ホルムズ海峡での混乱による影響は地域によって大きく異なる。その差を左右する最大の要因は、それぞれの市場が同海峡を通過する輸入品にどの程度依存しているかである(図表3)。なかでも、湾岸協力理事会(GCC)の近隣諸国は最も早く影響を受けた。混乱が始まる前には、GCC加盟国のうちバーレーン、クウェート、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)では、輸入の50%超がホルムズ海峡を通過していた。
さらに、中東から遠く離れたアジア諸国も、ホルムズ海峡を経由する海上輸送への依存度が高い。特にパキスタンは依存度が高く、輸入の約20%が同海峡を通過する。インドでは12%である。中国、日本、韓国はこれより低いものの、無視できない5~10%の水準だ。南アフリカ、タンザニア、ナミビアなど複数のアフリカ諸国も同程度である。
各国政府は、この混乱に対応するため、需要・供給の両面で200を超える対策を講じている。たとえば、日本ではエネルギー価格への補助が拡充され、中国では戦略備蓄の放出が行われた。特に東南アジア諸国は湾岸地域からのエネルギー供給への依存度が高いため、大きな影響を受けている。一部の国では、週の勤務日数を減らす措置を義務付けたり、自動車での移動やエアコンの使用を制限したりする対応も取られている。
これに対して、米国の輸入への直接的な影響は極めて限定的である。ホルムズ海峡を経由する輸入は、米国の輸入全体の約1%にすぎない。それでも、同海峡を通過する燃料や、プラスチック、肥料などの価格が上昇したことで、米国経済にも影響が及んでいる。
湾岸諸国や、そこからエネルギーを輸入するアジア諸国のホルムズ海峡への依存度が高い一方、ロシア、ドイツ、バルト諸国の貿易は、デンマーク海峡やイギリス海峡に大きく依存している。また、ロシア、ウクライナ、ブルガリアなど黒海沿岸の輸出国は、ボスポラス海峡に依存している。
理論上は、深刻な混乱が生じた場合、航空輸送や陸上輸送への切り替えも考えられる。しかし、地政学的な要因で海上交通の要衝が閉鎖される場合、その原因となった紛争によって、こうした代替手段も同時に制約を受けることがある。現在進行中の中東紛争では、湾岸地域の主要ハブを経由する航空貨物量が紛争前と比べて80%以上減少しており、航空輸送という代替手段自体が制約を受けていることを示している。
3. 混乱がどれだけ長く続くかによって、必要な対応は変わる。混乱の深刻度と継続期間は、必ずしも比例するわけではない。ホルムズ海峡では混乱が数カ月にわたって続いており、対応の重点も、当初の供給ショックへの対処から、より広範な経済的圧力への対応へと移っている。エネルギー生産国は石油備蓄を放出し、価格上昇を受けて市場参加者も在庫を取り崩している。湾岸地域以外の産油国、特に米国では、輸出量が過去最高の水準に達した。混乱が長引くなか、エネルギー需要も減少した。
とはいえ、混乱がどれだけ続くかによって、取るべき対応は変わる。2週間程度の混乱であれば、一時的な在庫でしのぐことができる。しかし、数カ月に及ぶ通航停止となれば、問題は構造的なものとなり、航路の変更、調達先の変更、サプライチェーンの再設計といった対応が必要だ。
さらに、ホルムズ海峡の事案が示しているのは、現在の混乱だけが問題ではないという点である。混乱がいつまで続くのか分からないことや、今後再び閉鎖される可能性も重要なリスクとなる。そのため、多くの湾岸諸国では、経済の脆弱性を低減する取り組みが進められている。具体的には、一つの海上交通の要衝への依存を減らし、サプライチェーンの集中を分散させるとともに、エネルギーや国外からの労働力、輸入技術への依存度を引き下げようとしている。
4. 海上交通の要衝への依存度は、産業やサプライチェーンによって大きく異なる。ホルムズ海峡での混乱は、石油・ガスだけでなく、アルミニウム、肥料、化学原料など、多くの産業のサプライチェーンに欠かせない重要な原材料の輸送にも影響を及ぼしている。
海上貿易への依存度は産業によって異なる(図表4)。たとえば、鉱業では貿易量の約95%、エネルギーでは89%が海上輸送によるものである。エネルギー関連の海上貿易のうち約30%はホルムズ海峡を通過している。また、電気機械の約55%は、マラッカ海峡、台湾海峡、ルソン海峡というアジアの3つの海峡を通過する。黒海地域から輸出される穀物はボスポラス海峡に依存しており、海上で迂回できる代替ルートはない。
個別の製品に目を向けると、特定の要衝への集中度がさらに高い場合もある。たとえば中国はクリーンエネルギー関連機器の製造で世界をリードしているため、太陽光発電や風力発電関連の部品の多くがアジアの要衝を通過する。クリーンエネルギー関連製品の海上貿易の約55%は、台湾海峡またはルソン海峡のいずれかを経由している。
これに対し自動車産業では、リスクが一つの要衝に集中しているわけではない。主要な部品群の多くで、海上輸送される製品の相当部分が複数の要衝を通過している(図表5)。なかでも、台湾海峡、ルソン海峡、ジブラルタル海峡、マラッカ海峡への依存度が高い。特に自動車用タイヤ・チューブは、海上交通の要衝に強く依存している。海上貿易量の約3分の1が台湾海峡、ルソン海峡、マラッカ海峡を経由している。
5. 影響の大きさや影響が表れるタイミングは一様ではない。海上交通の要衝で混乱が生じた場合、その影響のなかには、すぐに広範囲へ及ぶものもある。中東での紛争が始まった際には、世界の原油価格が間を置かずに上昇し、ホルムズ海峡を通過する貨物への直接的な依存が小さい企業や消費者も含め、世界各地に影響が及んだ。
一方、影響が表れるまでに時間がかかるものもある。当初は在庫によって供給減の影響が緩和される場合があり、契約条件や生産サイクルによって、原材料などのコスト上昇が価格に反映されるまでに時間差が生じることもある。しかし時間がたつにつれて、貨物の遅延や在庫の減少が実際の品不足につながる可能性がある。また、価格上昇はバリューチェーンの下流へと波及していく。たとえば、原油や石油化学原料の価格上昇は、ポリマーを経て、最終的にはゴム手袋のような完成品の価格にも影響する。こうした影響のなかには事前に予測できるものもある一方、当初の混乱から何層も離れたサプライヤーとの取引関係を通じて、後になって表面化するものもある。
企業リーダーが取るべきアクション
海上交通の要衝で生じる混乱は、あらゆる企業に影響を与え得るが、その影響の受け方は一様ではない。企業が目指すべきなのは、レジリエンスを最大限まで高めることではなく、リスクとコストの適切なバランスを見極めることである。
リスクヘッジ、在庫の積み増し、サプライヤーの多様化、生産の現地化はいずれもリスクを低減する手段となるが、それぞれにコストを伴う。場合によっては、混乱によって生じると見込まれる損失よりも、平時から備え続けるコストの方が高いため、一定のリスクを受け入れるという判断もあり得る。重要なのは、危機が起きてから対応を決めるのではなく、自社がどのようなリスクにさらされているかを十分に把握したうえで、あらかじめ判断しておくことである。以下のステップは、企業が自社にとって適切な選択を行ううえで役立つ。
自社がどのようなリスクにさらされているかを把握する。自社のサプライチェーンと海上交通の要衝との関係を可視化する。自社の直接の調達先だけでなく、二次、三次のサプライヤーについても、どの要衝で混乱が生じた場合に影響を受ける可能性があるかを把握する必要がある。
製品の構成を何層もさかのぼった先にあるリスクであっても、その所在を把握できれば管理することが可能になる。180社以上を対象としたBCGの2025年調査では、エンドツーエンドでのサプライチェーンの可視性は、社内の計画策定上の課題として、需要予測の精度に次いで2番目に多く挙げられた。
シナリオごとに影響を評価する。混乱を引き起こし得るさまざまな要因が発生する可能性を見極める。自社の調達先や製品構成にとって重要な貿易ルートについて、実用的な海上代替ルートがないのか、それとも迂回が可能なのかを評価する。前者では供給量や価格への影響が大きくなる可能性があり、後者では追加の時間やコストが発生する。こうした分析はAIツールを活用することで迅速化できる。たとえばデジタルツインを用いれば、何層にもわたるサプライヤーへの依存関係を可視化し、さまざまなシナリオでどのような影響が生じるかを検証できる。
コストへの影響を算定する。実際に起きている、あるいは今後起こり得る混乱のシナリオを、売上原価や利益率への影響に置き換えて評価し、対応すべき優先順位を品目ごとに明確にする。利益率の観点は特に重要である。たとえば、ポリプロピレンのような原材料の価格が急騰しても、高付加価値製品を製造する企業にとっては影響が限定的な場合がある。一方、樹脂が製造コストの大部分を占める低価格製品では、事業への影響が極めて大きくなる可能性がある。前者では必ずしも対応策を講じる必要はないが、後者では代替策を検討する必要がある。
具体的な対策を講じる。経済的な影響を評価し、どこまでリスクを受け入れるかという方針を定めたうえで、特に影響の大きいリスクについて、以下のような対策を選択する。
- サプライヤーを多様化する。調達先を複数の国・地域に分散し、一つの海上交通の要衝で混乱が生じても、調達全体が止まらないようにする。ただし、確認すべきなのは調達先の所在地だけではない。異なる国のサプライヤーから調達していても、貨物が同じ海峡を通過する場合があるため、実際の輸送ルートまで把握する必要がある。生産や調達を需要地の近くに移すことや、地域内でサプライチェーンを構築することも選択肢となる。
- 備えを厚くする。特に重要な原材料や完成品について、追加在庫や安全在庫を確保したり、複数の調達先から確保できる部品を増やしたりすることで、緊急時への備えを強化する。
- 重要な価格変動リスクを抑える。その方法の一つがヘッジである。航空会社では、ジェット燃料が通常、運航コストの20~30%を占める。ホルムズ海峡の閉鎖によって、その価格は約50%上昇した。国際航空運送協会(IATA)が追跡した欧州の航空会社の一部では、閉鎖に先立ち、燃料価格の上昇に備えて使用量の最大70%をヘッジしていた。一方、北米の航空会社の多くは、燃料価格のヘッジをほとんど行わない方針へ移行していた。
海上交通の要衝そのものは、以前から存在していた。変わったのは、こうした場所が持つ経済的な影響力と、さまざまな形で混乱を引き起こし得ることへの認識が高まったという点である。海上交通の要衝をめぐるリスクは、グローバル企業にとって、無視できないリスク要因であると同時に、新たなコスト要因にもなりつつある。企業は、地理的な制約が一段と大きくなる将来に備え、こうしたリスクが戦略面・財務面にもたらす影響をより的確に把握する取り組みに、今から着手する必要がある。
原典: Maritime Chokepoints: Five Lessons from the Strait of Hormuz