新たな競争の時代が幕を開けた。知性が人間だけの領域であったころ、希少な人材を独占する企業は明確な競争優位を維持できた。しかし今や、AIモデルがほぼあらゆる分野で博士レベルの知識を習得するに至り、知性の希少性は失われつつある。知性が豊富に存在する世界では、優位性はそれを「持つ」ことではなく、競合他社よりも生産的に「活用する」ことから生まれる。この知性はAIモデルの言語であり通貨である、トークンの消費を通じて展開されるため、私たちはこれを「トークンベース競争」と呼ぶ。1988年にBCGが提唱した、競争優位性の新たな源泉は時間的速さであるというコンセプト「タイムベース競争」になぞらえたものだ。
トークンベース競争における優位性は、自動化と従業員の能力の拡張という両面を通じて、AIを業務遂行の中核に据えることで生まれる。製造業における組み立てラインがそうであったように、トークンは知的労働者の生産性を飛躍的に高める。先行企業はAIを中心にプロセスを再設計し、専門家が判断しながらシステムを導く形で運営している。こうした企業は、人間だけの組織では到底及ばない速さと規模で事業を展開している。さらに、トークンベース競争の勝者がこれを正しく実践すれば、AIの進化、つまり高度化、高速化、低コスト化とともに自律的に改善し続ける業務フローを構築することになる。
トークンベース競争の勝者が正しく実践すれば、AIが進化するにつれて自律的に改善し続ける業務フローを構築することになる。
このリターンは相当なものになり得る。BCGは年間の売上高が5億ドルを超える上場テクノロジー企業107社のトークン消費量を分析した。ソフトウェアエンジニアリングの分野ではすでに、人材とAIのスキルを最適化する方向で、役割や働き方の変革が進んでいる。Cursor(カーソル)などのAIコーディング環境を通じてトークン消費量を企業間で一貫して測定できるため、ソフトウェアエンジニアリングは、実際の利用データからトークンベース競争の行方が観察できる最初の領域の一つだ。分析サンプルにおけるパターンをみると、生産的なトークン活用が優位性の獲得につながり始めていることが示唆されている。トークン消費量が上位20%の企業における前年比売上高の成長率の中央値は16.5%であったのに対し、下位20%のグループでは5.1%にとどまった(図表)。
トークンベース競争の時代に優位性を確立するために、リーダーが取るべき4つの重要なアクションを紹介する。
トークンコストを事業全体で管理し、すべてのAIプロジェクトでROInt(知的資本利益率)を測定する。企業が資本を展開する際、支出をいかに最小化するかを問うだけではなく、その資本がどこで最大のリターンを生み出せるかも問うはずだ。同様に、企業はトークン支出を事業全体で最大のリターンをもたらす機会に振り向け、そのリターンが時間とともに有機的に成長する領域に集中させるべきだ。
AIモデルが競争優位性を生み出す力は二つの特性に根ざしている。第一に、AIを活用したプロセスは、基盤モデルの改善とインタラクション(人間との対話)からの学習によって、より賢く・速く・安価になる。これが継続的成長の好循環を生み出す。第二に、AIを活用したシステムはキャパシティを柔軟に拡縮できるため、需要に対する最適化が容易になる。
これらの特性が生み出す価値を自社のものとするには、展開されたトークンの価値を追跡する適切な目標値を設定する必要がある。労働コストの削減のみを測定する企業は、構造的により狭いAI活用の取り組みに偏重し、大きな価値を取り逃がすことになる。一方、トークン消費の最大化(いわゆる「トークンマキシング」)のみに焦点を当てる企業は、従業員がトークン関連指標を操作する歪んだインセンティブを生み出す。
そこで私たちは、より広義のリターン指標として「ROInt(知的資本利益率)」の採用を推奨する。これはアウトプットの価値を労働コストとトークンコストの合計で割ったものだ。知的資本利益率により、性質がまったく異なるAI活用の取り組みを同じ基準で比較できる。すなわち、「人材とトークンの組み合わせから、企業はどれだけの価値を得ているか」という問いに答えられる。
たとえば、カスタマーサービスの自動化のように、AIが従来の人間の労働を代替するケースでは、同じ業務をより低いコストで行うことに価値が生まれる。知的資本利益率はこの効率性を捉える。一方、ソフトウェアエンジニアリングやR&Dのような、人間の能力を拡張するケースでは、知的資本利益率は同じ人数、あるいはそれ以上の人員によって生み出される、より多くのアウトプット、より速いイノベーション、または新たな収益という形で価値を測定する。
トークン支出の責任をAI推進部門または事業部門に移管し、戦略計画に統合する。経営層はAI支出の管理方法について重大な問いに直面している。CFOはトークン消費のコストをどこから捻出するかに悩み、CTOはトークンの「超過使用」が大幅な予算超過を引き起こすことを懸念している。AI推進部門のリーダーは、トークン消費量やコストがどう推移するかの見通しなしに翌年の予算を組むことを求められている。これらの問いに個別に対処するのではなく、AIの説明責任を、コストセンターと見なされがちなIT部門から経営企画、AI推進部門、財務部門へと移管することを提案する。そうすることで、AIを業務遂行の中核に統合できる。
目標は、AIを戦略的に展開したときに生まれる継続的成長の好循環を活用することだ。従業員が業務フロー全体を再設計し、新たなツールとエージェント、評価のメカニズムを構築するにつれ、組織はこれらの優位性を事業全体でより効果的に活用する方法を学習できる。トークンベース競争における優位性は、継続的に学習・改善しながら、もっとも価値のあるシステムを構築する企業に帰する。
トークンベース競争における優位性は、継続的に学習・改善しながら、もっとも価値のあるシステムを構築する企業に帰する。
たとえば、英国の日用品大手レキットは、マーケティングや製品開発、R&Dにわたって選択的にAIを導入している。経営層はAIを使って各部門の働き方を変革し、専門家の意思決定を支援しながら、R&Dを加速することによってイノベーションコストを低減している。同社はコンテンツ開発を最大60%迅速化し、プロトタイプ数の削減により研究サイクルを高速化し、マーケティングとイノベーションの質的向上を達成したと報告している。
トークンを労働の代替手段ではなく、人材の能力拡張ツールとして位置づける。AIを統合した大半の業務フローでは、人間が仕事を始め、導き、仕上げる。どの問題を解くべきかを決定し、プロンプトや業務フローを形成し、アウトプットを評価し、判断し、結果に責任を持つのは人間だ(だからこそ知的資本利益率は人的コストとトークンコストの両方を含む)。この論点は人員についての通念を覆す。人員削減は単にコストを削減するだけではなく、AIのアウトプットを信頼性が高く実用的な価値に変換する組織能力を損なう可能性がある。
人員の代替に過剰に傾倒する企業は、その戦略が重要な人的スキルの枯渇を招いたことに気づいた時点で、軌道修正を余儀なくされるかもしれない。調査会社ガートナーは、AI導入によりカスタマーサービスの人員を削減した企業の半数が2027年までに再雇用すると予測している。カスタマーサービス・サポート企業のリーダー321人を対象とした同社の調査では、AIを理由に実際に人員を削減できたのはわずか20%にとどまる。これはAIの能力が一様ではないことを改めて示している。AIが自動化できるタスクがある一方で、人間ならではの文脈理解、人間関係、そして物理的な存在感に依存する役割は多く、こうした要素はいずれも代替が難しい。
米クラウドサービスのクラウドフレアのマシュー・プリンスCEOは、ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で同社のアプローチを明らかにし、大きな反響を呼んだ。AIにより、「測定」の役割、つまり中間管理職やオペレーションの業務の必要性が低下する一方、製品開発や顧客対応に従事する従業員の価値は高まると主張した。同社は「測定」に携わる人員を削減し、エンジニアリングや顧客対応部門での採用を増やした。
組織変革を推進力とし、正面から誠実に向き合う。BCGの調査では、AIによって50〜55%の職務が変容する一方、AIによって代替される職務は10〜15%にとどまる。トークンベース競争は、AI投資と人材投資の二者択一という誤った選択を拒絶した企業が勝利する。職務の進化に伴い、経営層は、従業員が中核の業務フローでAIを活用する方法を理解するための、文化や行動変容、業務の意識的な再設計の役割を見落とすことはできない。変革管理を戦略の一部として扱うことが不可欠であり、それが後付けであってはならない。
トークンベース競争は、AI投資と人材投資の二者択一という誤った選択を拒絶した企業が勝利する。
調査ではまた、AIを自律的な方法で活用しているのは従業員の10%未満にすぎないことが分かっている。多くの段階にわたる業務をAIエージェントに委任するのではなく、単に答えや個別タスクの支援を求めるプロンプト入力にとどまっているということだ。導入が停滞するのは往々にして人的な理由だ。従業員はどこでAIが価値を生み出せるかを知らず、業務を再設計する代わりに慣れ親しんだルーティンに戻り、自らの中核的な専門性やアイデンティティが脅かされると感じる場面ではAI活用に抵抗する。経営層はこれらの障壁に正面から誠実に向き合う必要がある。そうしなければ、トークン消費量は増えても、それを価値に変える行動様式は根付かないままになりかねない。
米国の大手銀行JPモルガン・チェースが資産運用担当者に助言するプラットフォーム「Coach AI」を立ち上げた際、段階的にツールを展開し、技術の価値を実証するとともに、アドバイザーが日常業務の文脈で学習できる環境を整えた。同行のアセット&ウェルス・マネジメント部門のメアリー・キャラハン・アードスCEOは、目標は「従業員の日常業務から喜びのない作業を排除し、より付加価値の高い業務に専念できるようにする」ことだと述べている。アドバイザーは今やAIを活用してコンテンツリサーチやクライアント情報の検索を最大95%高速化し、その結果、クライアントとの有意義な対話により多くの時間を費やしている。
経営層へのメッセージは明確だ。今すぐ知性を生産的に活用する組織能力の構築を始めることだ。その組織能力はアクティベーション(活性化)から生まれる。経営層がAIを中核的な業務フローの一部として業務を再設計し、管理職が新たな行動様式を定着させ、チームが新たな習慣を構築し、従業員がAIのアウトプットを指示・評価・改善する方法を学ぶことだ。導入は出発点に過ぎない。より重要な目標は、トークンをビジネス価値に変換する方法を知る組織をつくることだ。
原典: The Era of Token-Based Competition Is Here. Is Your AI Strategy Ready?