2024年までの5年間における日本の大企業のTSR(株主総利回り)ランキングを発表~BCG調査

価値創造に優れた企業のランキング、上位10社中、5社が新たにランクイン

2025年6月5日
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価値創造に優れた企業のランキング、上位10社中、5社が新たにランクイン

【プレスリリース】

経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、日本企業の過去5年間の価値創造について調査したレポート「 エクイティストーリーとしての中期経営計画――日本版バリュークリエーターズ・ランキング2025 」(以下、レポート)を発表しました。

2024年、日本企業のTSRは引き続き上昇も、課題が浮き彫りに

日・米・欧・新興国、それぞれの国・地域の企業の年平均TSR(株主総利回り)を比較したところ、日本企業の2020~2024年の5年間の年平均TSRは13%と、欧州(7%)、新興国(6%)を上回り、米国企業の15%に肉薄する水準を達成しました。しかし、TSRの構成要因を「利益成長」「マルチプル変化」「フリーキャッシュフロー利回り」に分解すると、バリュエーション指標であるマルチプルの大幅な低下が足かせとなっていることが明らかになりました。投資家は依然として、資本収益性やガバナンス体制など日本企業が抱える根本的な課題が解決されていないとみている可能性があります。

業種別TSR上位は「保険」「半導体」

業種別のTSR分析では、昨年5位の「保険」が首位に、昨年首位の「半導体」が2位とトップが入れ替わりました(図表1)。「保険」は、金利上昇が業績を押し上げたほか、積極的な株主還元が堅調な株価パフォーマンスを下支えしたと考えられます。「半導体」は、引き続き旺盛な生成AI・データセンター向け投資需要を背景に力強い利益成長を実現したことがTSR成長の主な要因となりました。

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価値創造に優れた日本企業のランキングの顔ぶれ

時価総額1兆円以上の大型企業を対象としたランキング[注1](図表2)では、フジクラが首位に躍り出ました。同社は独自の光ファイバー技術「SWR」を強みに、データセンター投資の世界的な拡大にともなって急増する光ファイバー需要を取り込み、業績を急成長させています。海運大手3社や、半導体検査・製造装置メーカーのアドバンテスト、ディスコが良好な業界環境を追い風に、昨年に続いて上位を維持する一方、フジクラをはじめ上位10社の半数(フジクラ、サンリオ、アシックス、三菱重工業、カプコン)はいずれも、昨年上位20社に入っておらず、新たにランクインした企業でした。レポートではこれらの企業についても概説しています。

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投資家の信頼を得るためには、中期経営計画を「エクイティストーリー」として策定する必要がある

レポートの後半では、中期経営計画(中計)に焦点を合わせています。経営環境の不確実性が高まるなか、日本で広く普及している中計が今の時代にそぐわないという「中計不要論」が近年浮上しています。中計は、自社が中長期的にめざす方向性や成長ストーリーを示して投資家の信頼を得るための有力なツールとしての意義を持つ一方、現状は投資家の期待に応える中計を打ち出せている企業ばかりではありません。

レポートでは、2020年から2024年までの5年間に中計を公表した187社を対象に、中計公表後1週間の株価推移(株価リターンからTOPIXリターンを差し引いた「TOPIX対比超過リターン」)を分析しました(図表3)。超過リターンが3%を超える企業は全体の25%、一方で3%を超えるマイナスであった企業もほぼ同水準の26%を占めました。さらに、変動幅が±3%以内と株価が大きく動かなかった企業は49%に上り、株価が上昇・下落した企業の割合がほぼ拮抗していることが明らかになっています。公表後に株価が上昇した企業の中計には、事業ポートフォリオ変革を打ち出している、意欲的な業績見通しが示されている、キャピタルアロケーション(資本配分)方針が明確化されている、などの特徴が見られました。

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レポートでは、投資家の要求の高まりや成長戦略を描くことの難しさ、事業環境の予測可能性の著しい低下などにより、これからの中計は資本市場向けに自社への投資意義を示すエクイティストーリーとして策定することが求められると提言しています。共著者の一人で、BCG東京オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー 加来 一郎 は「投資家の信頼を得るには、中計を単なる経営計画としてではなく、多数の投資先の候補のなかから『なぜ自社に投資すべきか』を説得力高く示す『エクイティストーリー』と位置づけて策定する必要があります」とコメントしています。

レポートではエクイティストーリーとしての中計がなぜ求められており、どのように策定するべきかを解説しています。

[注1]ランキングの対象は、2021年、2022年は時価総額5,000億円以上の企業、2023年版以降は時価総額1兆円以上の企業に変更している

■ 調査レポート

エクイティストーリーとしての中期経営計画――日本版バリュークリエーターズ・ランキング2025

■ 調査概要

TSR(トータル・シェアホルダー・リターン、株主総利回り)とは、企業価値創造の測定指標です。一定期間における配当と株価の値上がりの総利回りで、株主にとっての投資収益性を示します。本調査は日本企業769社を対象に2020~2024年の5年間における年平均TSRを算出・分析しました。BCGでは1999年より25年以上にわたりグローバル規模で同種の調査を継続して行っています。調査の詳細や過去のレポート、グローバルランキングについては こちら をご覧ください。

■ 担当者

加来 一郎  マネージング・ディレクター & シニア・パートナー
BCGプリンシパル・インベスター&プライベート・エクイティグループのアジア・パシフィック地区リーダー兼日本リーダー。およびコーポレートファイナンス&ストラテジーグループなどのコアメンバー。慶應義塾大学卒業。住友商事株式会社、外資系コンサルティングファーム、PEファンドを経て現在に至る。

坂上 隆二  パートナー & アソシエイト・ディレクター
BCGコーポレートファイナンス&ストラテジーグループ、およびプリンシパル・インベスター&プライベート・エクイティグループのコアメンバー。京都大学法学部卒業、パリ第2大学大学院国際関係修士、フランス国立行政学院(ENA)国際行政課程修了。外務省を経て現在に至る。

千田 秀典  パートナー
BCGコーポレートファイナンス&ストラテジーグループ、およびテクノロジー・メディア・通信グループ、産業財・自動車グループのコアメンバー。東京大学工学部卒業。同大学大学院工学系研究科修了。BCGシンガポール・オフィス、およびマニラ・オフィスで勤務した経験を有する。

■ 本件に関するお問い合わせ

ボストン コンサルティング グループ マーケティング 中崎・中林・嶋津
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com

ボストン コンサルティング グループ(BCG)

BCGは、ビジネスや社会のリーダーとともに戦略課題の解決や成長機会の実現に取り組んでいます。BCGは1963年に戦略コンサルティングのパイオニアとして創設されました。今日私たちは、クライアントとの緊密な協働を通じてすべてのステークホルダーに利益をもたらすことをめざす変革アプローチにより、組織力の向上、持続的な競争優位性構築、社会への貢献を後押ししています。

BCGのグローバルで多様性に富むチームは、産業や経営トピックに関する深い専門知識と、現状を問い直し企業変革を促進するためのさまざまな洞察を基にクライアントを支援しています。最先端のマネジメントコンサルティング、テクノロジーとデザイン、デジタルベンチャーなどの機能によりソリューションを提供します。経営トップから現場に至るまで、BCGならではの協働を通じ、組織に大きなインパクトを生み出すとともにより良き社会をつくるお手伝いをしています。

日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。