AIは急速に仕事を変化させている。その速さは、企業が業務を再設計するスピードをはるかに上回る。一般従業員の74%が日常的にAIを使うようになったことは劇的な変化だ。また、日常的にAIを使う一般従業員の42%が、週に1営業日分以上の時間を創出できていると回答した。そして全回答者の3分の2以上が、AIが定型業務を担うことで、より高度な業務に集中するようになったと答えた。
こうした進展にもかかわらず、企業のオペレーションのあり方はそのスピードに追いついていない。長期的なAI活用の成功を左右するのは、戦略の明確性だ。BCGの「職場におけるAI活用に関する意識調査 2026」によると、明確な計画を持つことは非常に重要であり、AIツールへのアクセスが限られている企業においても、AIのインパクトを高める効果がある。
今年の調査から得られたこれらの知見は、2025年調査で初めて示されたパターンを裏付けるものだ。1万1,749人の一般従業員、管理職、経営層を対象に14の国・地域で実施した2026年の調査では、新たな傾向も浮かび上がってきた。まず、AIを活用して価値を創出することと、従業員の満足度を高めることは相反するものではなく、むしろ両者は密接に結びついている。また、AIエージェントはこれまで以上に多くの業務プロセスに組み込まれており、61%の人が今後3年以内にAIエージェントが自身の業務の半分以上を実行できるようになると考えている。従業員によるAI活用が当たり前となった今、それを測定可能な形で事業価値へと転換するには、組織と人の役割のあり方そのものを再設計することが求められる。調査結果の詳細は、以下のスライド資料で紹介している。
2025年調査でみられた傾向を裏付ける、新たな発見
今回の調査は、AIが比較的短い間にいかに大きな進歩を遂げたかを示している。日常的にAIを使う一般従業員のうち42%が、週8時間、つまり1営業日以上を創出できており、マーケティング(60%)、IT(53%)、人事(50%)などの職種ではさらに高い効果が見られる。しかし66%は依然として創出した時間の使い方について限定的な指針しか示されていない、あるいはまったく示されていないと回答した。また半数以上がその時間をより戦略的な業務に充てられていない。
2025年と比較して、AIを活用して業務フローをエンドツーエンドで再設計したり、新たなビジネスモデルを創造したりする段階に移行した企業の割合は、22%から42%にほぼ倍増した。AIを「再設計」や「創造」に活用する企業はいまだ少数派であるものの、AIツールの「導入」のみに注力する企業と比べて、より大きな価値を創出し、より良い従業員体験を提供し続けている。その優位性は、創出できる時間や従業員の仕事のやりがい、AIとの協働への自信など、複数の成功指標にわたって表れている。
適切なトレーニングと経営層からの支援はAIの潜在的な力を引き出す強力な原動力だが、企業は依然として対応しきれていない。全回答者の4分の3近く(72%)が求められるスキルが変化したと回答しているにもかかわらず、十分なトレーニングを受けたと感じているのはわずか36%にとどまる。経営層のAIに関する発信が明確だと答えた一般従業員は3分の1にすぎず、経営層の発言と自社の実際の行動の間に強い整合性を感じる割合はわずか28%だ。
変革は進んでいるが、課題も残っている
組織が経験を積み、AI活用がより高度化するにつれ、事業価値と従業員エンゲージメントの両方を生み出す取り組みが定着しつつある。
一般従業員がAIを日常業務に組み込んでいる。
業務フローは一般従業員に依存しているため、彼らを巻き込むことがAI変革の中核となってきた。過去数年間、AIを毎日または週に数回使用すると回答した一般従業員は約50%にとどまっていた。今年はそれが74%へと劇的に向上し、これは主に高齢の従業員、オペレーション系の職種、導入が遅れていた地域での普及が拡大したことによる。インド、中東諸国、オーストラリアが一般従業員のAI利用をけん引しており、職種別ではコーポレート部門の従業員の利用率が高い。
真の課題は組織的・マネジメント的なものに変化している。
AIは従業員の業務時間の使い方、パフォーマンスの評価方法、そして成功に必要なスキルを変化させつつある。しかし企業はそれをマネジメントの仕組みや組織の構造に反映できていない。72%の人がAIによって求められるスキルが変化したと答え、67%はAIが定型業務を担うことで、より高度な業務に集中するようになったと回答している。同様に60%が業務に求められる水準が高まったと感じている。半数近くが、AIの出力内容の確認・修正やAIへの指示・管理に費やす時間が増えたと回答した。また41%が意思決定を行う機会が増加したと答えている。
事業価値の創出と従業員の仕事のやりがいはトレードオフではなく、同時に生まれる。
AIは仕事をより良くする一方、より難しくもする、というパラドックスが生まれている。日常的にAIを使う人の3分の2以上が、AIを活用するようになってから仕事への満足度が向上したと回答しており、特に経営層でその傾向が強い。一方、全体の41%、経営層の48%がAI活用に伴う認知的な負荷の増大を感じている。事業価値を生む取り組みは、従業員が活躍できる環境をつくる取り組みと同じだ。具体的には、AIに関する発信と実際の取り組みを整合させること、AIが生み出す価値を測ること、AI活用のアイデア創出に従業員を巻き込むことなどが挙げられる。
AIへの高揚感は、経営層が明確な戦略で持続的なインパクトをけん引しない限り、長続きしない。
AI変革を成功させる上で最大の障壁は、曖昧さだ。ここで重要なのは戦略の明確性である。ただし、それは単にAIツールを提供することではない。測定可能な事業価値を基準に見ると、明確な戦略を持つ企業の従業員は、AIツールへのアクセスが充実している企業の従業員を上回る結果を出している。AIについて、従業員が関心を持てる切り口で伝えることも効果的だ。AI導入の初期段階では、新技術を使うことの新鮮さとそれに伴う認知的な刺激が、仕事のやりがいを生む。時間が経つにつれ、戦略の明確性、共感を呼ぶメッセージ、そしてAIで創出した時間の使い方に関する指針が、従業員のAIへの高揚感を持続させるようになる。一方、仕事のやりがいを損なうAI関連の要因は、AIの利用歴を問わず共通している。自分ならではの価値を示すことの難しさと、不十分なトレーニングがそれにあたる。
AIエージェントは概念から現実のものとなったが、オペレーティングモデルが追いついていない。
回答者の大多数(84%)が、AIエージェントについて聞いたことがあると回答した。自社がAIエージェントを業務フローに統合していると答えた割合は昨年比で倍以上となり(13%から30%)、さらに50%が職場でAIエージェントを試験的に導入していると回答している。こうした経験を通じて多くの人が3年以内にエージェントが自分の業務の少なくとも半分を担えるようになると考えており、特に経営層と管理職が大きな変化を見込んでいる。しかしAIエージェントの認知と組み込みは、企業が整備すべきガバナンスの構築を上回るスピードで進んでいる。全回答者の半数が、人間とAIが混在するチームを管理するための明確なガバナンスが自社に欠けていると回答しており、同じく約半数がAIに起因する説明責任を将来の最重要懸念事項のトップ3の一つに挙げている。
経営リーダーに求められる戦略的優先事項
より自律性の高いAIエージェントが業務フローに組み込まれるようになる中で、従業員のエンゲージメントを維持し、仕事のやりがいを向上させるために、CEOはAI変革に対して以下のようなアプローチをとるべきだ。
戦略の明確性を最優先事項とし、自らがその旗振り役となる。
戦略の明確性はコミュニケーションの問題ではなく、リーダーシップのあり方の問題だ。AIを明確な最優先事項として位置づけ、会社の目指す方向を示し、一般従業員を含む全員にそのメッセージを確実に届ける。変革を自ら主導するCEOは、事業価値の獲得、従業員のやりがい、信頼というすべての面で、そうでないCEOを上回る結果を出している。
評価軸を変える――導入率ではなく、価値を測る。
導入率はAIが使われているかを示すにすぎず、それが成果につながっているかはわからない。従業員個人が創出した時間は、追跡して意図的に再投資しない限り、組織から漏れ出てしまう。導入率ではなく、ビジネス上の成果に目を向けるべきだ。
より多くのツールを使うためではなく、業務のエンドツーエンドの再設計に投資する。
多くの企業が依然としてAIを従業員個人の生産性を向上させるツールとして捉えているが、より重要な変化は組織全体に関わるものだ。AIは、チームの協働のあり方や、組織内での業務の流れを再形成しつつある。その変化から価値を生み出すには、いくつかの中核的なプロセスをエンドツーエンドで再設計することが必要だ。
再設計の中心に人を据える。
再設計は、人が関与して初めて機能する。今後数年間で人の役割がどのように変化するかを見据え、最も重要なスキルのトレーニングを行い、変革を一方的に提示するのではなく、従業員が参加できるようにする。従業員のエンゲージメントを支えるのは、AIによってどれだけ速く働けるかではなく、AIを通じてどのように成長できるかを実感することだ。
変化し続けるものとしてガバナンスを構築する。
テクノロジーはどんな企業の対応速度も上回るスピードで進化する。AIを継続的に管理・調整し続けるべき対象として捉えることが重要だ。モデルやエージェントの進化に合わせて、何が機能しているかを定期的に検証し、価値を測り直し、方針を柔軟に見直せる、シンプルなガバナンス体制を整備し、それを維持する必要がある。