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あらゆる職場で、AIの導入が進んでいる。チャットGPTのような汎用ツールから、統合基幹業務システム(ERP)への組み込み、特定用途に特化したソリューションまで、その形はさまざまだ。いま企業が向き合うべきは、こうした導入の結果として組織の内側から生じつつある変化である。AIは業務、求められる人材像、そして業務に取り組むチームの協働の仕方を、どのように変えていくのだろうか。

AIによる変化の影響を最初に受けるのはテック人材である。テック系職種における業務の進化は、今後同様の変化を経験する他の職種にとってもモデルとなり、「仕事の未来」を考えるうえで視野を広げてくれる。現在、多くの企業はAI活用の成熟化へと向かう途上にある。ツールの導入を出発点に、自律的なAIエージェントがプログラミング、テスト、分析といった複雑な業務をエンドツーエンドで担い、人間が監督を行う「エージェント駆動型統合管理」へと進化していく見込みだ。企業はこうした過程のなかで、人間の強みとテクノロジーの強みをいかに組み合わせ、組織・人材戦略として形にしていくかという課題に直面している。

AI先進企業の経営層へのインタビューや、BCGがクライアントを支援するなかで得られた知見、そして労働市場データを踏まえると、仕事のあり方には、AIを起点とする大きな変化がすでに生じつつあることが明らかになった。具体的には、次のような変化である。

変化は起きつつあるものの、企業にとっては変革の方向性を形づくる機会でもある。

変化への対応は“待ったなし”の局面にある

職務上の影響をいち早く受ける立場にあるテック人材にとって、変化はすでに急速に進んでいる。過去1年だけを見ても、先進的なテック企業は、AIを前提とした世界に向けて人材モデルの見直しに迅速に対応してきた。

この変化は、単一の技術的ブレークスルーによってもたらされているのではない。新たなツールやプラットフォームが次々と押し寄せ、組織内のどのチームも仕事の進め方や担い手の見直しを常に迫られる。こうした変化は、単なる効率化にとどまるものではない。役割の再定義にはじまり、組織階層のスリム化、AIを使いこなす力を重視する採用戦略への転換まで、すでにより深い変化が進行している。多くの場合、仕事は削減されるのではなく再配分されており、チームはAIを日々の業務遂行や価値創出に活かす新たな方法を見いだしている。

AIの活用が次の段階に進むにつれて、テック系の職種ではどのような変化が起きているのだろうか。その一部を例示すると、以下の通りだ。

次のスライドショーでは上記5つの職種で生じている変化を、AI活用の進行状況に応じて整理している。

働き方の構造変化を読み解くフレームワーク

経営リーダーがこうした変革に全社規模で対応するための手がかりとして、私たちは「AIタレント・ホライズン・フレームワーク」を開発した。

このフレームワークは、主に2つの側面で構成されている(図表1)。

現在、多くのテック組織は、AI成熟度を示すカーブの初期段階にとどまっている。個人がAIを用いて作業のスピードを高め、反復作業を減らすといったツール中心の活用が依然として主流である一方、一部の組織は業務フローの変革へと進み始めている。AIがチームの業務フローに組み込まれ、人間とAIが協働してタスクをこなす段階へと移行しつつあるのだ。その先にあるのが、AIエージェントが業務の実行を統合的に遂行する段階である。この段階では、AIが業務をエンドツーエンドで担い、人は戦略の策定や監督を担う。

AI成熟度の進行状況ごとに、業務、人材、チームの協働の仕方にはそれぞれ、次のような大きな変化が生じる。

これは、チームが進化するかどうかの問題ではない。経営層がどれだけ速く、そしてどれだけ意図的に、チームをAI成熟度の最終段階へと導けるかが問われている。この変化は、全社レベルでAIの価値を引き出すために不可欠である。業務、人材と役割、チームの構造を再構想しなければ、どれほど高度なツールを導入しても、その投資対効果は頭打ちになりかねない。AIによって持続的な(場合によっては相当に飛躍的な)インパクトを実現することも可能であるものの、そのためにはAIを導入するだけでなく、目的や方向性を定め、統制し、AIの能力を増幅させる人間側の連携が欠かせない。

注目すべき7つの動向

次に挙げる7つの動向によって、仕事の進め方、担い手、チームの構造が再編され始めている。これらの変化は加速しており、わずか5年後には現在とは大きく異なる未来が到来することを示唆している。

仕事の定義そのものが変わりつつあり、実行の多くをAIが担うようになっている: AIはすでに、プログラムの下書き、技術ドキュメントの作成、テストの生成を担っており、人間はシステム設計や管理に集中できるようになっている。あるインタビューでは、エンジニア(人間)はより広い業務範囲を受け持つようになり、定型的なアウトプットはAIツールが担うようになっている、という声が聞かれた。成熟が進むにつれて業務フロー全体はAIが実行を担う形へと再編され、人間は実行ではなく方向性の設定、レビュー、統制を担うようになる

役割は職能ベースの分担から、より流動的なものへと変化している: エンジニアリング(開発・運用)、プロダクト(企画)、デザイン(設計)の間にあった境界は崩れつつある。今やエンジニアはAIが生成した仕様案の妥当性を検証し、プロダクトマネジャーはAIを使ってプロトタイプ(試作品)を作り、デザイナーは企画レベルの業務に踏み込むようになっている。あるリーダーは、プロダクトマネジャーが現在ではプロトタイプの立案、プロンプト作成、簡易的な品質確認までを含め、従来の4〜6倍の範囲を担っていると語った。複合的なスキルセットとAIを使いこなす力を併せ持つ人材が、急速にスタンダードになりつつある。

求められるスキルは変化しており、新たな基準が形成されている: AIを使いこなす力、システム思考、変化への適応力は、いまや欠かせない要素となっている。ある企業では、もはや基本的なプログラミング能力を測る試験はせず、AIツールを使って課題をどれだけ的確に解決できるかを評価しているという。ただし、プログラミングへの深い理解が不要になるわけではない。特に、デバッグ(バグの修正)やAIの挙動を監督するうえでは依然として重要である。AIが実行をより多く担うようになるにつれ、倫理観、共感力、文脈を踏まえた判断といった人間ならではの強みはいっそう価値が高まっている。

AIが業務に組み込まれるにつれ、チームはフラット化しつつある: テクニカルプロダクトマネジャー、品質保証エンジニア、営業開発担当といったサポート的な役割を多く担ってきた職務は、AIが実行を引き受けるにつれて縮小しつつある。組織は、AIアシスタントがサポートする職能横断型の小規模チームの集まりへと移行している。あるテック部門のリーダーは、共有ツールやコパイロット(AI支援サービス)を導入することで調整業務を担う階層を置き換え、テクニカルプロダクトマネジャーやプロダクトマーケティングマネジャーといった、調整業務の比重が大きい職務を段階的に縮小していると語っていた。その分の責任は再配分され、AIがサポートするようになっている。一部の役割が不要になる一方、企業は人材を他部門や別のチームへ再配置する動きも進めている。

新入社員に期待されるレベルが高まり、人材育成の流れが変わり始めている: AIが定型的な業務を自動化するにつれ、新入社員には初日から、より高いレベルでの貢献が求められるようになっている。経営層へのインタビューでは、教育機関が送り出す人材と、AIの使用を前提とした職務に求められる能力とのギャップが拡大していることが指摘された。企業はこれまでも人材のアップスキリングを行ってきたが、その負担は一段と重くなっている。より体系的な対策をとらなければ、新人が求められる水準に達しない状態が長期化するおそれがある。

人間の仕事がより付加価値の高い活動へと移るにつれ、拠点戦略の見直しが進んでいる: AIが定型的な実行業務を自動化することで、人間の役割は設計・課題解決・イノベーションといったより上流の、付加価値の高い活動へと押し上げられている。かつては事務的な定型業務を担い、その後は中核的な研究開発の機能を担ってきた「グローバル・ケイパビリティ・センター」(GCC、国外に設置する専門能力の集約拠点)も、現在ではAIの試験的導入や実装を主導するイノベーション拠点へと進化しつつある。必要とされるスキルが変化するなかで、各拠点の役割は新たな優先事項に合わせて戦略的に再定義されていくことになる。

人材獲得競争は激化し、市場環境は厳しさを増している: AIを使いこなす“AIネイティブな”人材の需要は急増している。トップクラスのテック人材の報酬水準は急速に上昇しており、出遅れた企業は追いつくために割高なコストを支払っている。なかには、人材ギャップを迅速に埋めるために競合他社からの引き抜きを進めている企業もある。将来的に主流となるであろうハイブリッド型チームにおいては、AIの指揮をとれる人材が競争優位を握ることになる。

現れつつある4つの組織類型と、経営リーダーへの示唆

                                                                                                                 
企業はこうしたAIを起点とした変化に対応する必要があり、実際に対応が始まっている。慎重に試行を重ねる組織もあれば、ゼロベースで再構築に踏み切る組織もある。その結果として、4つの明確な組織類型が現れつつある(図表2)。いずれのタイプも、「戦略的焦点」と「人材理念」の異なる組み合わせによって特徴づけられている。

万能の処方箋は存在しない。持続的な優位性を築くためにいま取るべき行動は、それぞれのタイプで異なる。適切な打ち手は、その企業がどのタイプに位置しているかによって決まる。既存の組織構造のなかで生成AIの活用を拡大しているのか、慎重に新たな可能性を模索しているのか、スピードを重視して効率化を進めているのか、それとも組織そのものを根本から再構想しようとしているのか。明確な方向性を持ち迅速に動く企業こそが、次なる潮流とも呼べる「AIファースト・トランスフォーメーション」をリードするだろう。

拡大展開型: 拡大展開型の組織は業務の回転率を重視し、既存の業務フローにAIツールを組み込むことで成果を拡大している。チーム構造は変えないまま、マネジャーの管轄範囲を広げるのが特徴である。すでに、成果に至るまでのスピードが目に見えて向上している組織もあり、プロダクトマネジャーの人数削減に踏み出している例もある。

拡大展開型組織のリーダーがいま取るべき行動: 全社規模での実行に注力することが求められる。開発・運用から品質保証、プロダクトマネジメントに至るまで職能横断でAIツールを組み込み、明確な利用指針を定める。一般社員については、ゼロからアウトプットを生み出すのではなく、AIが生成したアウトプットを監督・評価する役割へと転換できるよう支援する。あわせてマネジメント層のフラット化を進め、現場のAI活用を横断的に支援する中核的な拠点を立ち上げる。個々のタスクの完了を軸にするのではなく、AIが実行を担い人間が全体を管理する前提で、業務フローを再設計し始める。

内部育成型: 内部育成型の組織は従来の職階を維持した状態で、AIへの投資を積極的に進めている。組織再編によってではなく、社内人材の再教育と内部異動を通じて進化していく点が特徴である。

内部育成型組織のリーダーがいま取るべき行動: 試験運用と拡大展開を段階的に進めるアプローチを取る。具体的には、問い合わせの仕分けやコンテンツ運用といった影響範囲を抑えられる領域でAIを試験導入し、成果が確認できた取り組みを拡大していく。計画的なローテーションや内部異動、シャドーイング(実務に同席して学ぶOJTの一種)を活用し、従来の職務とAIを前提とした職務との間を段階的につないでいく。あわせて、基礎的なAIリテラシーとAIと協働するためのスキルが身につくよう、チームにアップスキリングを実施する。また、新人の採用・育成の枠組みは、なくすのではなく進化させるべきである。新人に求める水準を引き上げると同時に、明確なねらいを持って育成の仕組みを設計することで、キャリア初期の人材を支援することが重要だ。

効率化型: 効率化型の組織は、職務を統合し調整役を担う階層を段階的に減らすことで、無駄をそぎ落とした小規模チームを構築している。プロダクトマネジャーは設計にも携わり、エンジニアはAIを活用して自らアウトプットを検証するようになっている。

効率化型組織のリーダーがいま取るべき行動: 効率を最優先し、取り組みを絞り込む。まず、複合的なスキルを前提に職務を再設計し、新たな責任範囲を明確にする。さらに、同じような確認や調整が発生する階層を減らし、業務の受け渡しを極力なくして、シニアメンバーをリーダーに据えた小規模チームを構築する。各チームでは、AIと一体となって日々の業務を遂行していく。また、複合的な職務をサポートする学習プログラムに投資することや、組織の意思決定・実行の円滑化を図るため人事部門を戦略的パートナーに位置づけることも有効である。

再構想型: 再構想型の組織は、ゼロベースで組織を作り直している。「LLM(大規模言語モデル)プロダクトマネジャー」やAIエージェント同士の連携を管理する「エージェント・オーケストレーター」といった新たな職務を導入し、職階を再設計するとともに、業務遂行の中心にAIを据えている。

再構想型組織のリーダーがいま取るべき行動: 大胆に前進することが求められる。AIと人間のハイブリッド型チームを前提に職種のまとまりそのものを作り直す必要があり、例えば「LLMプロダクトマネジャー」「エージェント品質保証」「プロンプトOps(AIへの指示文を最適化することで精度向上とコスト削減を図る役割)」などが考えられる。さらに、ピラミッド構造の平坦化を進めてAIと人間の役割分担を前提とした新たな職階を構築し、AIを含めた小規模チームを立ち上げる。希少なAIネイティブ人材は早期に確保し、それ以外の人材については迅速にスキルの転換を進める。人事部門は変革の最前線で、新たなキャリアパスや制度をリアルタイムで形づくっていく役割を担う必要がある。

出発点を見極める

AIは、単にツールの形を変えているだけではない。企業がどのように価値を生み、組織を形づくり、競争していくのか、前提そのものを再定義している。ここで示した組織類型も、ただ業務モデルが変わるという話ではなく、AIを中核に組み込むことで長期にわたり競争優位を生み出していくための前提条件である。いま必要なのは場当たり的な導入ではない。2030年とその先に向けて、自社を差別化する職務、仕組み、行動原則を構築することだ。忘れてはならないのは、いま「先進的」に見える取り組みも、2030年までに、あるいはもっと早い段階で当たり前になる可能性が高いという点である。先行し続けるためには、企業は自らの現在地を正しく把握し、それに応じた行動を取らなければならない。

まずは、自社が最も近いと考えられるタイプを見極めること。それを物差しとして、職務の再設計、チーム構造の見直し、人員計画に至るまで、どこから行動を優先すべきかを判断する。そして、ねらいを定めて動くことが肝要だ。次の時代の競争優位は、テクノロジーやタスクの自動化だけから生まれるのではない。それを支える人材とチームの協働の仕方を、経営リーダーがどれだけ明確かつ果断に再構想できるかにかかっている。

We thank our BCG colleagues who helped to shape this work: Megan Mirabella, Auli Shen, Joe Khoury, Sambhav Jain, and Aditya Sharma. Special thanks to the leaders at AI-native and large tech organizations (including Vitaly Gordon of Faros AI and Surojit Chatterjee of Ema) who generously shared their insights through interviews and to the extended project team for their research, analysis, and thought partnership.

原典: AI Is Moving Faster Than Your Workforce Strategy. Are You Ready?